ワンカット詰め合わせその1
断りがなければ主人公の名前はゲーム・アニメを問わず鳴上悠です。話につながりはありません


蕭殺の頃の害

※社会人になってルームシェア1年目の花+主。特に付き合ってない


 深夜、一旦は寝付いた陽介だったが、ふと目覚めてしまい喉の渇きを覚えて自室を出てキッチンにある水道場へと向かった。暗がりの中、共用スペースであるリビングから微かに衣擦れの音がし、ギョっとしてその方を向くと、ぼんやりと丸型に近い人の形が見えた。
「え…?」
 陽介は水道場のすぐ上にある、蛍光灯を点ける為の紐を引っ張った。音がした所に悠がいた。陽介が寝る前おやすみと挨拶を交わした時とほとんど同じ体勢だ。悠はその時テレビを見ていたが、今はテレビは消されている。それどころか、灯りの一切が。
「おまっ…え、何してんだ?」
「…何も」
「…まさかあれからずっと、ここにいたのか?」
 悠からの返答は無い。ただ両腕で膝を抱え直して、膝の上に置いた左腕に自分の唇をあてた為、若干俯いた。
「なにやってんだよ。明日休日出勤って言ってなかったか?布団入って寝ろよ」
「眠れないんだ」
「…え?」
「5年前から…菜々子が誘拐された11月5日が過ぎると、決まってまともに眠れなくなる。スイッチの切り方がわからなくなってしまう感覚」
 午前1時過ぎの告白。悠はソファの上で三角座りをし、陽介を見ることなく視線はキッチンの方角に彷徨わせたまま、淡々と今ここでこうしている訳を呟く。
「自分の部屋じゃ一睡もできない。ここなら、陽介のものも置いてあるから…二人のものをあれこれ眺めていたら、今ここにいるのは自分一人じゃないんだって…何時間もかけながら理解して…ようやく眠り方を思い出すのが3時半を過ぎたぐらい。朝でも無いけどもう深夜でもない、その狭間…スっと波が引くように眠気が来て、カーテンから明かりが漏れ出す頃までは、記憶が無くなる」
 もう6日間も、こんな風に過ごしているというのか。深夜に、一人でいるには広過ぎて寒いこの空間に。いや、5年前からこのような有様だというのか。
「お前ずっと…ずっと、こうだったのか?」
「情けないことに。だけど、今年はいい。まだ眠れて、すっきり目覚められてる。陽介と一緒に暮らしているから」
 大学へ通っている4年間は、二人とも一人暮らしだった。そこそこ互いの家に遊びには行っていたし、泊まったこともあった。11月の頃はどうだっただろうか。肝心な記憶が今すぐ思い出せない。
「誰もいなかったのがネックなのかな。一人寝ができないなんて、幼児化してしまったみたいだ」
「違うだろそれ」
 キッチンから届く光源は弱々しく、悠が今どんな表情を浮かべているのかよくわからない。だけど、自嘲気味に口の端を上げた後、陽介から怒り口調で否定されて、またその口元が元に戻った様子だけ、スローモーション動画が流れたかのように印象に残った。
 陽介は顔を歪めた。己の不甲斐なさに。
「あの時の事…やっぱり、俺らには計れなかったんだな…お前の、辛さが」
 たまたま傍にあったブランケットを取り上げ、陽介は悠の座るソファへやって来て、隣に座る。
「陽介…?」
 身体を丸めて座る悠を包むようにブランケットをかけてやり、陽介は悠の肩に右腕を回し、左腕で悠の頭を抱いた。
「辛けりゃ言えよって言って…お前が言うヤツじゃないのはわかってたはずなのに。ゴメンな、気づいてやれなくて。遅くなって、悪かった」
「陽介…」
「決めたから。お前がまともに眠れるまで、ずっと傍にいる。今日明日だけの話じゃない。お前が迷惑だって言い出すまで、ずっと」
「…永久に、言い出さなかったらどうしてくれるんだ?」
 悠の声がかすれきっている。それだけに、きっとこの傷は根深いのだろう。誰もが、悠の一番近くにいた陽介ですら、その底を推し量れぬまで。
「お前はきっと、立ち直れる。それまでは何が何でも一緒にいる。だから、余計な心配すんな」
 陽介が両腕に力を込めると、悠の身体が一度大きく震えた。その後、呻き声のようなくぐもった声が断続的に漏れてくる。陽介は何も言わず、右手で悠の肩をさすり続けた。暫くして、悠から寝息が聞こえてきても、陽介は手を止めなかった。

 奇しくも11月11日から12日へと跨っていた日のことだ。6年前のこの日、菜々子を救出した日でもあった。

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自分用メモ : 蕭殺(しょうさつ)…もの寂しいさま。特に、秋の末の、草木が枯れてもの寂しいさま。    タイトル変更しろ

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冷えの解消方法

※友情以上恋人未満な花主。学生でも社会人でも。共に一人暮らし中


「どうした、眠れないのか?」
 今日は悠が陽介の家に泊まりに来ている。次の日、二人で電車を使って遠出することになっていて、駅からより近い陽介の家に悠が前泊した形だ。日付を跨ぐ頃合となり、次の日は休日だが明日に備えて早めに休む事にしたのであるが。
 おやすみと言ってから、半時間以上経過しているはずだ。陽介が寝ているベッドの隣には布団を敷いた上で横になっている、普段は寝つきのいい悠がもぞもぞと寝返りを打つ音が頻繁に聞こえる。
「うん…足が冷えて気になって眠れない」
 そういえば今日から急激に冷え込んだっけな…に、しても、お前は女子かと、陽介は突っ込みそうになったが思い止まる。女の誰もが冷え性であるとは限らないし、男だってたまには冷え性で困っているヤツもいる。
「靴下履くか?出してやるぜ」
「いや…あんまり変わりなさそうだからいい」
「え、でも履かないよかは」
「触ってみればわかる」
 悠は布団から足を出し、陽介が寝ているベッドの上に乗せる。陽介は左手を布団から出して悠の踵辺りを掴んだ。
「冷てっ!なんじゃこりゃ、想像以上じゃん?」
「一枚履いたところで意味無いだろ」
「冬場ずっとこんな状態なのかよ?だったら毎日なかなか寝られないんじゃ」
「冬は寝る直前に風呂に入って、温もってる内に布団に入るから」
「なら足湯でもするか?桶にお湯張ってやっから」
「面倒くさいだろ、いい。俺も起きるの面倒くさい」
「お前な…」
「それよりも…5分だけでいいからこのまま陽介の手であっためて欲しい…すごく気持ちいい」
「そりゃ別に構わないけどさ…それならもう片方の足も…あーでも、足の方がデカいからカバーできねえよ。つか、この状態、温める一方で冷えていかね?」
 冷たいのは足先だけではない。陽介は悠の足の上の方に手を移動させる。足首から上、脛や脹脛も温かいとは言い難い。このままだと温めた面積より冷えていく面積の方が増えていくばかりだ。おまけに陽介の手も今の体温を保っていられなくなる。
「爪先さえ温もったらそれでなんとかなるから」
「そうはいってもなあ…しゃあねえ、ちっと狭いけどこっち来い」
「えっ?」
 陽介が空いてる方の手を出して、布団を軽く叩いて悠を招く。思わず聞き返した悠の声が意外に大きかったので、陽介は苦笑した。
「そんなどん引きしてくれんなよ。同じ5分でも10分でも、こうしてるよりは温もってる布団の中に足突っ込んだ方が遥かに早く温まるだろ?」
「いいのか?俺だぞ。お前の彼女じゃないぞ?図体デカいし、本当に狭くなるぞ」
「知ってるわ!つか今彼女いねーわ!更に言えば、お前以外の誰かならこんな申し出しねーわ!」
「あんまり興奮すると眠れなくなるぞ」
「原因が言うな。ほら、さっさと入れ。あ、枕は持って来いよ」
 陽介は悠の足から手を離し、その手で自分の布団をめくった。
「ん…じゃ遠慮なく」
 悠は身を起こし、枕片手にすぐ隣の陽介のベッドへ入り込んだ。自分の為に空けてくれたスペースに残されているその温かさに思わず顔が綻ぶ。陽介の手で布団を被せられると、今まで特に冷えてないはずの上半身までもが、それ以上の温かさに包まれた。
「あー、幸せ、極楽」
「極楽って…お前歳いくつだ」
「花村君と同い年のはずです」
「はずって…まあもうどうでもいいか」
 ほっこりと、力の入っていない蕩けそうな微笑みを浮かべる悠を見て、陽介は完全に毒気を抜かれた。男女問わずもてまくるこの相棒の、超至近距離でこの表情を独占できる今は、陽介にとっても至福の一時だ。
「あー、5分とか言わず、好きなだけここにいていいから」
 狭いものの、寝返りを打てるぐらいの余裕はあるし、意外と支障は無い。一晩このままでも平気だ…むしろ、こんな事もう滅多に見込めないだろうから、今日ぐらいはこのまま傍にいて欲しい――無自覚の内に悠に対して込められた陽介の誘い文句だった。
「うん。そうさせてもらう。あと…その、ちょっとだけ」
「うおっ!」
 悠が陽介の足へ、自分の膝から下の足を浅く絡めてきた。その事自体にも大いにびっくりしたが、それ以上に感じた悠の足の冷たさにもう一度びっくりするはめになった。
「温もったら、離すから」
「お前なあ…頼むから、もっとはっきり予告したげて心臓がもたないわ」
「ゴメン」
 自分との体温差にも度肝を抜かれたが、時間が経過していくにつれ、悠と身体の一部分がベッドの中で触れ合っているその事実に、陽介の顔が一気に熱くなった。実際には膝から下だけだが。
「陽介…あったかい…」
「眠れそうか?」
「うん。ありがとう」
 早くも夢現の様相の悠を見て、陽介は安堵する。これだけの冷えを冬毎に味わわなければならないのはかわいそうだと思った。
「今度お前が泊まりに来るまでに、湯たんぽか電気毛布でも用意しとくわ」
「そう言われると…なんか俺、お爺ちゃんになった気分だ」
 悠は思わず口をへの字に曲げた。それを見て陽介が笑う。
「そういうつもりで言ったんじゃねえよ。寝る時ぐらいぬくぬくでいたいだろ」
「なら…」
「ん?」
「冬場泊まりに来た時は、陽介のベッドで一緒に寝る」
「へ?」
「ダメか?余計なもの買わなくて済むし、手っ取り早くあったくなれるし…幸せだし」
「おま…相手俺だぞ。お前の彼女じゃないぞ?ベッドこれ以上広いの買う予定も無いからな?」
「うん知ってる。俺も今彼女いないし。ベッドもこれでいい。もっと言うと、お前以外の誰かにこんな要求しない」
「…ホントに、俺以外の友達に、こんなこと言うなよ。言ったら変態扱いされんぞ」
「うん。言わない」
 悠の足は無事陽介の体温のおかげで温まったようだ。もぞりと足を動かし、陽介に絡ませた足を解こうとしたが、陽介が悠の足を軽く押さえつけて阻んだ。
「こっちも…好きなだけ、いいから」
「今日の陽介…俺のこと、甘やかし過ぎ」
「んな…俺は甘えてくるもんを、放置できない性質なんですー」
「俺は甘えてない」
「嘘付け。普段に比べたら雲泥の差だ…いっそ…それでいいから、な」
「調子に乗るぞ」
「上等だコノヤロー」
 軽口の叩き合いが終わる頃、悠の目蓋が目に見えて下がってきた。陽介の方も欠伸が出る。
「おやすみ、陽介。また明日」
「ああ、おやすみ」
 それから数分後、悠が寝入ったと分かったのは陽介の足にかかる重さが変わったからだ。健やかな寝顔が微笑ましく陽介の目に映る。
 今日も、そして明日も、悠の一番傍にいられる幸運をかみ締めつつ、陽介も眠りについた。


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煩う夜の越え方
※社会人で同棲中。三十路付近の岐路的な時期。物凄く中途半端に終わってます


 二人で数え切れない程の夜を越え、また今宵も同じように時が流れようとしていた。
 しかし、とうとう一方が、その境目を越えることに戸惑いを覚えた夜の話。

「このままずっと一緒にいたい」
 今にも泣き出しそうな表情とは裏腹に、声は何の感情も伴っていないかのような一本調子、だけど力は無い。
「なんてな」
 ペルソナを付け替えたようだった。一瞬で哀から楽への変貌。どちらが仮面でどちらが素顔なのか、もうわからない。
「聞かなかった事にして」
 一言前の弱々しい声の持ち主と同一とは全く思えない、快活そうな口調で告げると、悠は陽介の顔から視線を外して天井を向いた。
「そんなの、無理だっつの」
「え…」
 逆に今まで視線を天井に向けていた陽介が隣の悠の顔を見る。その目にありったけの力を込めて。
「例えばいつか、俺にもお前にも彼女ができて結婚までしたとする。この先人生で後悔する場面に出会ったら、きっと真っ先に思い出してしまうのは…今の、お前の顔だ」
「そんなことはない。寝て起きれば忘れる。忘れろ」
 あくまでも淡々とした口調を崩さない悠と、段々熱情を孕む陽介。
「いいや、忘れてやんねえ。俺は…最初から、いつかお前と別れるつもりで付き合った覚えは無え。好きで好きでどうしようもなくなって、1分でも1秒でも長くお前の傍にいたいと思ったから、今こうしてここにいる」
「俺といても明るい未来はない。誰からも祝福されないし望まれない。一生疎まれるだけになる。お前は普通の幸せを手に入れろ」
 誰に何を吹き込まれた――こんな事を言い出すのだから、かなり突かれたのだろう。陽介自身も身に覚えがある。陽介は何を言われようが受け流す術を早々に身に着けてしまっているが、何事にも真剣に向き合う悠は、自分に与えられた忠告を簡単に流す事ができないのだろう。それが忠告の皮を被った嫌味やからかいの類でも。
「なあ。お前の考える普通の幸せって、なんだよ」
「決まっている。陽介は顔も性格も、誰からでも好かれる最高の男だ。社会的地位も確立している。陽介が行動を起こさなくても向こうから寄って来る華やかさがある。綺麗でかわいいお嫁さん貰って、子宝に恵まれて、一生賑やかで楽しい家庭を築けるだろう」
「それさ、俺が先に同じ事をお前に言ってたら、どう反応した?」
「それ、は…」
「つまりは、そういうことだ。今お前が言った模範解答の中に、俺の求める幸せなんか、1mmも無えんだよ。それに俺の頭の悪さはお前が一番良く知ってんだろ?模範解答通りの答え、出せた例があったか?」
 悠が陽介を嫌になったのなら仕方が無いが、それ以外の理由で身を引くと言うなら、全力でその退路を断つ――そんな思いを陽介は悠にぶつけた。
「俺の生活の中にお前がいない幸せなんて、んなの幸せなんかじゃねえよ。後の一生はただの消化試合だ。俺に、そんな嘘モンの幸せを味わわせたいのか?お前が…俺を幸せにしてくれるんじゃなかったのか?」


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ザ・インタビュー
※性格固め自分用メモ。脈絡はまるで無い。下の方の会話文は若干花鳴のつもり


――相手の好きなところを教えて下さい
鳴上:全部
花村:全部だな

――全部と言った場合、見たい目以外の、特にこれだけは強調したい点を簡潔に答えて下さい
鳴上 : 甘えてきた相手に対して、最初は突き放しながらもなんだかんだいって最後の最後まで面倒を見る。俺に対しては最初から甘やかしてくれる。頭の回転が恐ろしく速い。自分の手柄のはずなのにいつの間にか身を引いていて人を立てるのが上手過ぎる
花村 : 懐がとんでもなく深い。とにかく優しい。どんな些細な事でも真剣に取り合ってくれる。何事に対しても全力。甘やかしはしないけど決して見放さない。視野が広くて知識が半端無い。料理サイコーに美味い。冷静沈着で度胸が据わっている。一言一言が重い、そして時にぶっ飛ぶほど面白い

――相手のどうにかして欲しい点は
鳴上 : 最重要事項じゃない悩みを隠れ蓑にして、本当にどうにかしたい辛さを覆い隠してしまう。自分からガッカリと思われるように仕向けている。やればできる子なんだ
花村 : 自分にとって辛い事を「自分以上に辛い人がいる」って理由で蓋をしてしまって、無自覚の内に大した事なんて無い振る舞いをしてしまってる。甘え下手でこっちが切ない

――二つ前の質問を思い出して下さい。そこで思いつかなかった、相手の好きな点を今一度述べてください。今度は見た目、性格問いませんが、挙げるのは一つだけ
鳴上 : 俺の名前をこの世で一番大切そうに呼ぶ声
花村 : 俺の名前を呼んでくれる声。他の皆の名前を呼ぶ時の声と全然違うのわかるからすげー嬉しい

「…一つ、いいか?」
「何?」
「最後の」
「最後?」
「お前の回答」
「え…ああ、微妙に被ったな」
「それはいいんだよ。お前と俺、おんなじような思考パターンで嬉しくなった…じゃなくて」
「だから、何?」
「大切そうってところ、異議あり」
「えっ!?俺、自意識過剰、だったか…?あー…悪かった、な。俺には、そう聞こえるから。勘違いしてゴメン」
「わー、早とちりすんな!ちげーよ、すんげー嬉しいんだよ、でも!」
「でも…?」
「大切そう、じゃなくて、大切!なんだよ!」
「へ?」
「俺にとっても自分の名前より大切なんだよ、お前の名前。だからその、お前の名前を呼ぶ時は俺の気持ちの全てをかけてたつもりだったんだけど…“大切”じゃなくて“大切そう”って思われてたから…まだ足りなかったって、今猛烈に反省してんだよ」
「…よかった」
「え?」
「自惚れじゃ無くて、よかった」
「お、おう。もっと、お前の名前、気持ち込めて呼ぶからな」

(締め方がわからないのでここらへんで打ち切り)


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2013年のメリークリスマス
※会話文。19歳で両思い。途中若干下ネタはさまっています


「何考えてる?顔、ちょっと緩んでるぜ」
「去年と一昨年のクリスマスのこと思い出してた」
「あー、去年は天城屋旅館で勉強合宿で、一昨年はアレだ、ひたすらムサい集まりだったっけ」
「それはそれで面白かったぞ。それに、ムサいだけじゃ、なかったし」
「…思えば本当はあん時から両思いだったのにさ、カタコイだと諦めてたから…目の前のお前に手を伸ばせなくてほぼ一晩中もんもんとしてた」
「はは、俺もそうだった。けど、陽介が残ってくれて、久しぶりに家の中で一人きりじゃない幸せの方が勝ってたかな」
「迷惑だと思って…お前の家である以前に堂島さんと菜々子ちゃんの家だし、他人の俺たちが家主不在の時に上がり込むのは抵抗があったんだ。けど、それも体のいい言い訳だったと思う。お前をあの家に一人きりにしてたあん時の俺をぶん殴りに行きたい」
「はは、過去の陽介がかわいそうだからやめてあげて」
「けど、俺…」
「ストップ。その代わり今十分べったりしてる。今年こうやって…二人やる事やって真っ裸のままベッドの中でピロートークしてるなんて、想像もしてなかった」
「確かにな。漠然とこう…きっとお前には美人の彼女ができてて、ヨロシクやってる最中、俺は相変わらずヒーヒー言いながらバイトでもしてるんだろうなあ…なんて想像してた。今年初めてニュースで流れたどっかのクリスマスツリーの点灯式見ながら、そんなことを」
「俺も。今も夢見てるみたいだ」
「夢、じゃないんだよな?」
「夢じゃない。こうなる前に夢に出てきた事もあったけど」
「俺、お前の夢に出てきたことあんだ?」
「うん。お前のことがそれ位好きで」
「さらっと嬉しい事言ってくれるじゃねえか。どんな夢だったんだ?」
「最初に見た夢は」
「うん」
「チンコおっ勃てた陽介が俺の尻穴にグリッグリ突き込んできて」
「ちょっタンマ!初っ端からガチ過ぎる夢だなオイ!お前の夢の中の俺はどんな野蛮人だよ!」
「っていうのは冗談だけど」
「そこで冗談いう必要あんの!?」
「一応それも見たことのある夢ではあるんだけど」
「俺はどう反応を返せばいいんだ…」
「まあそれはそれとして。一番最初に見た夢は、時期も覚えてる。12月の始め。俺は…理由はもう忘れたけど途方にくれていて、そこに陽介が現れたんだ。ただ黙って俺を抱きしめてくれた。俺はその温かさにほっとして泣き出してしまって…でも陽介は何も聞かずに何も言わずにずっと抱きしめてくれた。そのまま目が覚めた」
「…」
「目覚めた時…凄く幸せだった。けど同時に胸が苦しかったのを覚えている。その時の俺、にやけながら泣いてた記憶がある。こんな事、現実には有り得ないだろって。叶う事なんて無いだろ…って」
「…なあ」
「ん?」
「そん時の…夢の中の俺は、お前を大事に、してたか?できてたか」
「…ああ。とても。そうだ…こんな風に」
「ん…」
「しっかり抱き込んでくれてさ…辛いって思った時はその感触思い出して、幸せ気分に浸ったり、反面苦しさがブーストされたりして…なんかその度自虐めいた笑いが止まらなかった」
「悠…」
「あーでも、この夢のせい?おかげ?で陽介に抱かれる事に抵抗が無くなったっていうか」
「は?」
「男なら好きな子を抱きたいって思うのが普通だろ?俺だって好きになった当初は陽介のこと抱きたかったもん」
「ようするに俺も貞操の危機にあったのね!?お前なら構わないけど!あーいやいや、今のなし!」
「そんなに照れるなよ」
「照れて無え!…ってそうだったのか。揉めるだろうなって予想してたけど、道理で事がすんなり運んだの。お前寛容さが半端無いから妥協してくれてんのかなって思ってた」
「甘やかされたのが思いの外心地よかったんだ、夢のお前に」
「で、実際は?俺は、ちゃんとお前の事を」
「心配しなくていい。夢以上に甘やかされて愛されてるから」
「そう思ってくれてるならよかった」
「陽介ももっと甘えてくれていい」
「十分、甘えてるっつーの」
「確かに…下半身が、不穏な行動をしてるようだな?」
「それはっ…お前の素肌がスベスベしてて気持ちいいからだろ!」
「っ…お前だって、同じだ」
「ああ、もうどうしてくれよう…若さが今微妙に憎い」
「ワンモア?」
「3回目だぞ?せっかく身奇麗にしたのに?」
「俺はいい。陽介次第」
「んなこと言われたら、引き下がれないっつの。手加減の程は?」
「遠慮せず来い」
「んじゃ、遠慮なく」

 クリスマスの夜が静かにふけていく…


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