義務と権利


 『行ってきなよ。皆との約束を果たしに』


 今、自分の背後には眠りにつこうとしている“ニュクス”がいる。この先、きっと長い時間をかけて自分が“守る”べき存在。
『僕なら、大丈夫だから』
 日常が戻る、と。ニュクスはそう告げた。皆にも、自分にも。
 なら、出撃の前に皆と交わしたあの約束を果たす義務があり、それは今の自分に残された数少ない権利でもある。
 自分自身のことは、正直どうでもいい。俺が俺であると自覚できる限り、肉体と精神が分裂しようが、それらがどこに存在しようが、どんな姿になろうが大したことじゃあない。
 だけど、自分を思ってくれている人たちは、まだ間違いなく今まで自分が過ごしてきた“この世”にとどまっていて、死んでいないはずの自分を懸命に探してくれている。
 皆を、裏切りたくはない。


 …少しの猶予はあるようだ。だから“ニュクス”も皆の下へ行ってこいと告げた。いや、きっと望めば封印を解いてずっと“向こう”の世界にいることだってできるだろう。今の自分はそれだけの力を得ることができた。
 ただ…思ったんだ。“ニュクス”を金輪際狂うべき存在にしてはならない。誰にでも等しく死は訪れるのだから、全てが唐突に死に絶えるような不当な死はあってはならない。


 死に触れたがる人間がいる以上に、未来への希望と可能性を持った人間がいる限り、絶対に。


 自分なりに導き出した、結んだ“絆”の守り方であり、“命のこたえ”だ。


『言われなくても、行くさ』
 自分の返事に、そう言うと思った、と。
 後ろの“ニュクス”が笑みを含ませた言葉を返してきた。
 いってらっしゃい。
 穏やかな見送りを背に受けて、皆の声が聞こえてくる光の射す方向へ、意識を飛ばした――


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綾時の一人称が僕なのかどうなのか忘れました

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