非望の代償


 わしらの望みは、全ての人間を同じ運命に導くことやった。わしらをこんな運命にさらした憎しみ苦しみをあの日で全部きれいに終わらせて、昇華っちゅったらおかしいけど、何にも無くしてしまうことやった。
 でもな、今…こうやって生きてて考えてん。それはホンマにわしらの望みやったんかって。わしらにはそうするしかできんかったからこそそれを一番の望みにしてしもたけど、たとえばもうちょっとだけ幸福な人生歩んでて、アイツらみたいな純粋な力を得てたとしたら…わしらの望んだことも、或いは変わってたのかも知れん。
 叶うはずも無かったから、叶える術を持たんかったからお互い口には出さんかっただけ。


 こんなことを問いかけるわしに、歴史にIFは無いって、軽蔑するかもしれんけどな、一つだけ言わせてくれ。
 なあタカヤ…わしらを制約してた“全ての枷”が外れたとして、それでもあなたは“滅び”を望んだか?
 わしらのホンマの望みは――


 緑色の夜が無くなって、青い昼の空を見てたらな…こんなこと言うたら怒るかもしれんけどな、わしらがずっと感じてた破滅的に重たかった絶望感が、どうしようもない程、ちっぽけなモンに摩り替わっていくねん。
 青い大空が、暗いわしらを笑い飛ばしてる…お前らごとき小さい存在が、己に宿した不幸なんざ目くそ鼻くそ以下に過ぎんのじゃ、ってな。
 誰からも愛される青空(コイツ)を憎んでいたのは世界中でわしらだけやった。
 わしらの一生をかけて怨んだったのに、それすら悠然と受け止めてくだらんって笑いやがる。
 …まあ確かに、目の前のコイツは広大過ぎて、それにわしも気力尽きかけてるし反論する気、失せたわ。


 予定通りに自らの滅びを得たアンタは、幸せやったかもしれん。どっち道余命の短いわしは変に生き残ってしもて、何倍も余分に不幸を背負ってしもた気がせんでもない。
 せやけど、この世のあり方について考え直す時間が多少残っただけ、マシ…なんかな。できればタカヤ、アンタと一緒に考え直したかったけどな。
 まあ、そんなに遠ない間にそっちいくやろから、昼寝でもして待っといて。


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非望:分不相応の大きな望み。(大辞泉)
ジンはタカヤがすでに死んだと思っている前提。こんなこと綴りつつ、ストレガ二人は塔の中で死んだと思っています。

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