バレンタインデー


毎年恒例、綺麗にラッピングされたパッケージの山、山、山…エンドレス、が王の執務室の内外に築き上げられる。
当日に届けられるものが無論一番多いのだが、我先にと思う人間も年々増え、1週間近く前から部屋を占拠し始める。ひとつひとつでは大したことはないのだが、これだけの量になると、いくら丁寧に包装してあっても、甘い香りの暴走はとどまること知らず。

美形、独身の賢王とくれば、これくらいは軽いか。
ジョニーは肩をすくめ、チョコレートの山の間を通り抜け、その奥にある当事者の私室へと入り、適当にソファーへ座る。部屋の主はまだいなかったがいつものことなので気にしない。
持参した雑誌をパラパラ捲るといやでも目に付く「バレンタイン特集」の文字。男性向け雑誌であるがゆえに、アプローチの仕方というよりはむしろいかにモテ男を演出するか、とか、本命の彼女からチョコゲットの方法等、それはそれは賑やかな紙面となっている。ジョニーにとって参考になるような内容は一つもなかったが、暇つぶしにはなったようである。

「ジョニーさん。」
部屋の主が入ってきた。随分と待たれたのではと問われたが、大して時間が経過したようには感じない。
そのことを告げるとウッドロウは苦笑しながらテーブルを指差す。
「出したお茶が冷め切って、おやつが全部無くなる時間は経っているようですね。」
「あー、そんなに待った感はしなんだがな。」
「入れ直します。私も一息つきたいし。」
「ん、今日はもう終わりの時刻じゃないのかい?」
「執務室のものをどうにかしないと、明日以降に支障が出てくるのでね。」
「ああ、そうか。ご苦労なこった。愛も重けりゃ大変だな。」
「そうでもありません。それに、皆の好意が受け取れる内は国が正しい方向に進んでいるという証でもあります。」
「一種のバロメーターだな、こりゃ。」
「そうですね。」

メイドが運んできたお茶を飲みながら、やはり話題はバレンタインデーへ向く。
「そういやこれだけの量のチョコ、一体どうやって処理してるんだ?」
まさか一かじりずつ食べるにしても膨大すぎてそれどころではないし、だからといって無作為に選んで食べるわけでもないだろう。普通なら衛生面や暗殺防止の為に全て処分するところだろうが、ウッドロウの性格上そんな無碍なことはしないはずである。
「溶かすんです、全部。」
「え、あれを、全部?」
「ええ。まあ勿論、城の者には苦労をかけさせて申し訳ないと思うが、一応全て中身は改めさせている。そう言えば、昨年はジョニーさん、この時期においでになっていなかったか。」
「ああ、確かフェイトに余計な仕事を押し付けられてな。」
「そうか、じゃあアレはご覧になってないんですね。」
「アレ?」
「溶かしたチョコで彫像を作ったんです。」
王という立場上、やはり寄せられたチョコレートやお菓子類を食べることは叶わず、市民もそれを承知の上でプレゼントする。前王の頃もプレゼントは寄せられていたが、例外なく全て焼却処分という運命を辿っていたようである。それはあまりにも忍びない。せめて処分される前にどうにかして有効利用は出来ないものか…と考え付いたのが。
「はー、よくもまあ、考えたもんだな。」
一枚の写真を見せられたジョニーが笑う。ハイデルベルグの大通りに展示されたケース入りのチョコレート彫刻の数々が写っている。もう一枚、ウッドロウの手から渡された写真には、その大通りに市民がたくさん訪れている様子が写っている。露店もかなりの数が立ち並んでいるようで、ちょっとしたお祭りのようだ。
「こりゃ今年も期待されてるぜ。年中行事になっちまうな、多分。」
「ええ、今年貰った数も昨年の倍近くあるみたいでね。」
余計な大仕事を作ってしまったかなと言いつつ、成功を願う表情が見て取れる。城の者や恐らく外部から呼んでいるであろう彫刻職人を巻き込んでいる時点で、単なるバレンタイン感謝イベントではない。それ相当の経済効果を見込んでの一大イベントの幕開けだ。

「やれやれ、ただでさえ忙しい身分だってのに、暫くの間はもっと忙しくなりそうだな。無理するんじゃないぜ。」
そう言って、少し残念そうに笑いながらジョニーは立ち上がる。こういう時はぐだぐだ長居すると未練が残るからなるべくさっさと退散するに限る。一緒にいるだけでも充分であると思いつつ、そばにいれば手を伸ばしたくなってしまうから。
「どこへ?」
「泊まるつもりだったがな、明日以降の職務に支障が出たらかなわんだろう。」
例のごとく、無理をさせちまうに決まっているからなと出て行きかけるジョニーの腕をウッドロウは反射的に捕まえた。
「待って下さい…確かに、今日から本格的に作業に入りますけど、イベント自体はホワイトデー合わせだし、いきなり疲れるようなことはしないです。」
ジョニーの腕を捕まえる手が熱を帯びる。
「結局、今日だってバレンタインデーだというのに、忙しさを理由に何も用意できなくて…その代わり、無理をするつもりで、貴方をお呼びたてしたのだから。」
言った後で、自分の誘い文句に赤面して下を向くウッドロウ。滅多とないウッドロウからのそんな言葉に目を白黒させた後、ジョニーはウッドロウの身体をありったけの力で抱きしめる。

「お言葉に甘えて、今日は止まんないぜ。俺の愛は誰よりも重たいんだ。覚悟しとけよ。」
と綺麗な笑顔を浮かべて告げれば、ウッドロウは嬉しそうに、幸せそうに微笑む。
「…望むところです。」


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きっとたくさんのチョコを貰うであろう陛下ですけど、市民のチョコを食べるのは危険極まりないので現実路線で消化方法を考えてみました。まんま札○○祭り。最後10行ほどを書きたかっただけです。

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以下、R18なエロ話が少しだけ続いてます。エロというか下ネタというか。
どんな内容でも笑って流して下さる方のみどうぞ。










「あ…ぁ…ああ!」
ウッドロウの嬌声と同時に、ジョニーの口内に欲熱が吐き出される。
「…甘いな。」
ごくりと飲み干して、ジョニーがうっとりと微笑う。
「嘘…。」
肩で息をしながらウッドロウが呆然と呟く。
「嘘じゃないさ。」
ジョニーの唇がウッドロウの口を塞ぐ。その味にウッドロウが顔をしかめる。自分の味など確かめてみたこともなかったが、少なくともこれを甘いと表現するジョニーの味覚はかなりおかしい気がする。
「大嘘。」
「じゃあ俺のと比べては?」
「…な。」
もう一度ジョニーはウッドロウの口を塞ぐ。もう大分薄れてしまっているが、自分の欲望の味が何とも気恥ずかしい。
「聞き方を変えようか。俺のは、どんな味?」
話題を変えたいが、股間を掴まれて弄ばれて思考力を奪われてはもう他のことが一切出てこない。答えは出ているんだろう、さあ答えてよと言わんばかりの目の前の美しい道化の視線。
「……ビター。とってもビター。」
「そっか。」
くくっと喉の奥でジョニーが笑う。
「よっぽど苦いんだな。その言い方。じゃあ、混ぜたらちょうどいいんじゃないか?」
「まぜっ…!?」
絶句するウッドロウを尻目に、ジョニーは二人の身体が重なるように場所を移動する。互いの性器を密着させて腰を動かし始めた。
「混ぜてみようぜ、グチャグチャに。」
「そ、のあと…どうするつもり、なんですか…。」
言った後に、しまったとウッドロウは思った。聞いてどうする、いやどうされるかわかったものではない。
「さあ、どうしようかね…限界までホワイトチョココーティングに挑戦してみようか?無理、してくれるんだろ?」
すっかり理性を手放し、朱の差した頬と熱っぽい視線で縫いとめられれば、まともでいようと思う方が馬鹿馬鹿しい。どうせならいっそ気が狂うまで乱れてやろうと下半身を擦り付ける。
「ちゃんと中まで、忘れないで下さい。」
掠れ声で囁くと、心底驚いた顔のジョニー。その顔がおかしくて思わず笑うウッドロウ。どうやらジョニーにはその笑顔さえ妖艶に見えたらしい。
「明日一日、職務放棄決定な。」

バレンタインデーの夜はまだまだ続く。

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