惹かれ合った水たち


「水ってのは、この地が誕生した後、外から新たに入ってきたことがないそうだ」
今はまだ日付が変わったぐらいの時刻、二人の青年が情交に耽っていた雰囲気が色濃く残る部屋の中は小さな豆灯一つがつけられただけ。
そんな部屋の窓際にその内の一人であるジョニーが半裸で立っている。窓の外、昨日の夕方から穏やかに降り続ける雨をじっと見つめながら不意にそうポツリと呟いた。
「・・・へえ」
内容を聞いて、関心の応答をしたのはもう一人の青年、ウッドロウ。こちらは何も身にまとわず腰から下をシーツで覆いベッドの上に横たわっている。
「だから、同じ水が何度も何度も地上をグルグル巡っている、んだそうだ」
ジョニーはそこまで言って、雨から目を離してウッドロウの方に向き直った。
「そんなこと、初めて知った。よくご存知ですね」
「いや、俺もこの間、雑誌で目にしただけさ」
その話に興味を持ったウッドロウは上半身を起こして、ジョニーの方を見ると、ジョニーは微かに笑ってウッドロウの元へと戻りベッドに腰掛ける。
「だから今降っている雨は1000年前の天地戦争の時に降った水も混ざっているかもしれない」
「それは、壮大な巡り合わせに聞こえるな」
「更にロマンティックなことを言おうか?人間のほとんどは水でできている。死んで土に帰れば水分が蒸発して空気中を漂いいずれ空に昇る・・・天に召されるってのは、まんざら嘘じゃない。そして雨になって地に降り、一部は動植物に取り込まれて・・・つまり誰かの中へ入り込んで生命活動の維持をする。だから俺が俺、お前がお前として生まれる前に同じ液体になって、一緒に漂っていた時期もあったかもな。或いは・・・そうだな、例えば俺が母親の腹に入っていた時の羊水が、将来のお前を構成する一部分だったとか・・・って、あんまり綺麗な例えじゃないな」
歌うように説いて見せた後、ま、たとえそうだとしても科学者でもなんでもない俺には想像し難い事象ではあるがな、と夢物語のような己の憶測を自嘲するように俯いて笑う。
「確かに、話が大き過ぎてピンと来辛いし、まさかなって思います。でも、そういうことだとしたら、妙にしっくり来る。あなたと、私が今こうして一緒にいること」
ジョニーの白い手を掴まえて自分の色濃い手を合わせ、ウッドロウは自分の頬に導いた。
「我々の前世・・・というものがあるのだとすれば、どんな形でいたのかはわからないけど、こうして人となって互いの肌に触れ合うことを夢見てたんでしょう」
それが叶って今私は幸せだと、微笑んだ恋人を己の胸に抱き寄せる。接した皮膚の滑らかさと温かさを貪欲に吸収し窒息しそうなまでの熱烈なキスを浴びせ、再びひとつになる為の行為に没頭して余すことなく身体同士みずを溶け合わせた。


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J○FMATEに載ってた記事を拾って。人間が死んだら蒸発どうのってのは当方の勝手な妄想です。
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