ワンカット詰め合わせその1 オールジョニウド

手を繋ぐことの意味


「お前の手はいつも温かい」
「貴方の手はいつも冷たい」
「だからこの温もりが心地よくて手放しがたいんだ」
「せめて私の体温と同化するまで放したくないのだ」

優しく繋いだ手と手、指先で手の甲をあやす様に撫でながら、終には隙間の全てが埋められる。
他人の指だというのに、自分の手を組み合わせるよりもよく馴染む、愛しい感触。

ヒトの指はその形となる為に、間部分に当たる細胞は自らの存在を絶つという――

非科学的な考え方だとは思う。
死んでいった自らの一部を埋めるのは、目の前の彼の指に他ならないことなのだと強く感じた。


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消尽無き熱情


「あつい、ああ…あつい」
狂おしいほどの熱に思考を奪われ、ゆらゆらと快楽の波間へと沈んでいく。
「でも続けていいんだろ?」
身体をピタリと添わせる美しい道化だけには全ての痴態を見られ、それに恍惚する己がいる。
「、勿論」

理性が弾け飛んで人で無くなる瞬間。否、最も純粋な人に回帰できる刹那か。
如何な阻む事象拒む訳など、恋しさに勝るはずが無い。


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行き着く先は拒絶の否定


「お前さん、これまで散々俺に対しては意地っ張りだったから、今だって簡単に振り払われるかと思ってたけど、な。手塩にかけて口説いてきたかいがあったってもんだ」
腕の中、ジョニーに軽い調子で言われたように聞こえたウッドロウは呻くように吐き出す。
「いつの頃からはもうわからない…貴方のことが頭から離れなくなったことの意味がどういうことであるのか、気がついて絶望しました。貴方は誰に対しても本気でなかったし全て遊んでいるようにしか見せなかった。私もその内の一人にしか過ぎない、と。わかっていたのに、私は…他の誰かからの愛に酷く弱かった」
「…ああ、俺がいくらお前さんの最も嫌いな人種だとしても、根が生真面目過ぎるお前さんは俺を最後の最後まで突っぱねることはできないことは手に取るようにわかったさ」
耳元で囁かれるこの常に歌うような甘い声が麻薬のように脳内を侵食する。自分ひとりのものにはなり得ないとわかっているから、胸が痛くてたまらない。今更手放しがたく忘れられそうにない温もりとにおいと優しさとこの声が憎過ぎる。
「遊ばれていることは私の中では間違いないと確信していたし、向けられた優しさは嘘に決まっているって、思っていたのに…思わなければいけなかったのに…仮に、少しは真実が混ざっていたとしても貴方も私も男同士だし…有り得ては…いけなかった…のに」
苦しさに喉が焼ける感触。首を振りながら声を振り絞る。

「ずっと…ずっと、こうして欲しかった人に、それが思いがけず望みが今叶って、簡単に手放して放棄できるほど…私は、大人ではないっ…!」


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何気ない贅沢


「全く…この世で一番の贅沢だよな」
「ん、何が?」
「空調の効いた部屋で大きなソファに寝そべりながら、誰もが羨む王様を抱いてテレビを見ているなんて、俺は世界で一番の贅沢者だ」

「なら」
「ん、なんだ?」
「この世で最も美しい人の傍に寄り添え、最高に甘い歌声が聞ける私もこの世で一番の贅沢者だ」

「俺が一番の美人とは限らないだろ」
「私には一番だからいいんです」ぎりぎりまでじらして吐き出された白い欲は熱くとろけていて、脱力して放蕩とした二人の身体を淫猥に飾り立てた。


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歌唄いの報酬


彼からの愛情が欲しい時、俺には手っ取り早い手段がある。
彼だけに聞かせる為に作った歌を歌う。他のどんな歌を歌うより心をこめて。
しかしそんな歌を歌い終わっても、賛辞はおろか拍手のひとつすら贈られることはない。

  歌への賛辞なんていらない
  ただ抱きしめてくれればいい
  幾千幾万の拍手よりも
  唯ひとつの長いキスが欲しい

そう、顔を赤らめながら彼はその通りにしてくれるからだ。
(つまり俺が逆リクエストしていることに他ならない)


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