― 僕の声が君に届く前に僕の声は死んでしまうだろうけど ― |
僕に向かって何度も何度も紡がれるお前の「愛してる」 その始まりは出会って暫くしてからだ。本当に唐突過ぎて、真剣に自分の耳の具合を案じてしまった。 他人を疑うことしか知らない僕には酷く薄っぺらな単語で、まるで真実味を感じられなかった。 以降、ずっとお前は僕に傷口に薬をすり込んでいく様に伝え続ける。 まとわりついてくるのが鬱陶しくて幾度と無く拒絶の言葉を吐き捨てても、懲りずに付きまとってくるから言うだけ言わせておけとばかりに無視をし続けた。しかし諦めるどころか柔らかな笑顔を浮かべて贈られる同じ言葉は僕を混乱させるのに充分で、ごくたまに途切れた日が生じると(宿に泊まることができず疲れきったまま野宿するハメになった時だとか)そのことに気づいた瞬間何故だか息苦しさを感じ、鼓動が一つ嫌な跳ね上がり方をする。そして次の日に前の日の分を取り戻すかのように囁かれると、今度は反対に鼓動が一つ胸を打ってから息苦しさに襲われる。わけがわからなかった。 そんなことが繰り返される日々だったが、いつまでも続くものではないことは理解していたし、終わったところで月日が経てば自然とこの日々の記憶が風化していくことは想像できた。じゃれついてくる度に感じる体温を覚えておきたいと、お前の手が僕の身体から離れた後無意識に触れられていた部分に自分の手を重ねていたことに気づいたのは、旅も終わりに近づいた頃だった。 神の目奪還を控えた、旅の最後の夜だった。 図らずもお前と同室になった僕に抱きつき抱きしめ今までに聞いたことの無い擦れた声で僕の名を呼びキスをし、流れに流されて身体すら交えた後に囁かれた例の言葉は今までに無い甘さを孕み、くすぐったさしか感じなかったこれまでとはまるで違う――ズキリズキリと胸の奥が疼いてたまらなかった。 僕はこの突き上げる感情が何であるのかわからなかったから、言葉にしてお前に返すことができなかった。いや、一つだけはっきりとしていた。今この時は夜が明ければ終わってしまう、それが惜しくて苦しくて怖かったから知らぬふりをしていただけなのかも知れなかった。 *** 彼が、僕の名を叫ぶ。それが世界一悲痛な調べだと自惚れている自分が滑稽でたまらない。 崩れ往く海底洞窟、エレベーターが上階へと彼らを運んだ後も、ずっと彼の声が僕の耳の奥で反芻した。同じく、あの数多繰り返された甘い言葉も。 「これで・・・これで、いいんだろう」 目を閉じて外界の喧騒を遮断する。間も無く訪れる死が怖くないと言えば嘘になる。だけど丁度これっきりになることは、僕にとって最上級に都合のいいことなのかも知れない。様々な汚名を被った僕が、彼らのそばにいることはマイナスになることはあってもプラスになるとは思えない。 僕を抱いた彼は、決して幸せそうな表情ばかりを浮かべていたわけではなかった。むしろ想い明かさぬ僕の態度に、時折切なく苦しそうだった。彼はきっと信じてくれていたのだろう、僕のことを。だけど僕は最後まで彼の想いを裏切り続けた。裏切り続けておいて、膨らんだ想いを今になって伝えるのは彼にとって残酷なことくらい僕にでもわかる。 そう、認めてやるよ、僕も彼を愛していると。もうこの想いが届くことは決して無いのだけれど。 幾千もの愛しているを送ってくれた彼に対して、たったひとつも返せなかった僕を、どうかたくさん罵って欲しい。だけどわかっている。それでも彼は僕のことを切り捨てたりするようなことをしないだろうことは。 だからせめてこの身死して声届かずとも、悠久に彼と彼の愛する者達の幸せを祈り続けよう。 |
+++++ 【 小説置き場へ 】 タイトル配布元 : ロメア 一応D2に繋げたような締め方を。もう一つタイトルを生かしきれていない気がする。08/06/07 +++++ |