you're forever to me >> 9-3


 堂島から通常通り帰宅すると連絡があったので、悠は菜々子と一緒にその帰りを待っていた。時刻は間もなく19時だ。悠は途中で惣菜大学のボリューム満点ビフテキコロッケを2個も食べてきたのでそうでもないが、菜々子はさすがにおなかが空いているだろう。何となく様子が落ち着かない。
 悠が先に食べかけようかと提案しようとしたその時だった。玄関の戸が開く音がした。
「かえってきた!」
 菜々子がその場を立ち上がって出迎えた。この後決まって菜々子の元気な出迎えの挨拶が響くのだが、今日はかなり違った。
「お、おかえり」
 菜々子の声は明らかに戸惑いを含んでいる。悠も後ろを振り返って見てみると堂島以外に誰か一緒にいる。紺色のスーツによれた赤ネクタイ。
「こんちゃっすー」
 堂島よりはかなり若そうだが、見知らぬ大人の男一人が軽い感じの挨拶と共に居間へ入ってきた。
「珍しく上がりが一緒になったんでな。送りがてら連れてきた」
「どーも、この春から、堂島さんにこき使われてる、足立です」
 堂島から事情を聞かされ、男が自己紹介をした。どうやら堂島の部下らしい。
「なんだ足立、これでも遠慮してんだぞ?」
「まーた、お父さん。冗談キツいッスよ!あはは」
 堂島の口調は冗談とは思えないレベルで棘が生えていた気がするが、とは悠の心の談。しかし足立と名乗ったこの若い男はヘラっと笑って流した。いや、微妙に笑い方が乾いていたようにもとれるが。
「おわっと、そうだ!堂島さんから聞いたけど、君、確か天城雪子さんとクラスメイトでしょ?」
「はい」
「天城さんが見つかった…ってのはもう知ってるよね、堂島さん経由で。実は僕たち今日、天城さんちへ訪ねた帰りなんだけど、結構しんどそうだから暫くは学校に行けそうになかったかなあ」
「そうなんですか」
「うん、ホント、どこで何をしてたんだって位消耗しちゃってるからさ。本人も居ない間の事、覚えていないって言うし。それにその間の彼女の足取り、まるで本当に消えたみたいで、実はウチらも掴めなくてさ。なーんか怪しいっていうか、裏に何か…イタっ!」
 本格的にあれこれ語り出そうとした足立へ、堂島からすかさず鉄拳制裁が飛んだ。
「バカ野郎、要らん事言うな!」
「す、すいません…」
 怒声にすっかり縮こまった足立を一瞥すると、堂島は悠の方を向いてフォローを入れた。
「気にしなくていいぞ。コイツの勝手な妄想だ」
 そうは言うものの、足立が言いかけた憶測について、悠としては聞き捨てならなかった。数日前、天城屋旅館で警官たちが天城や旅館の関係者を怪しむ発言をしていたし、警察の捜査が天城へと向いているのかもしれない。
「天城を疑ってる…?」
 思わず語調が強くなってしまった悠に対して、堂島も真剣に対応する。
「心配するな。警察は、野次馬じゃないからな。こいつの独り言だ、本気にするなよ?」
 堂島の落ち着いた口調は、十分信用に値するものだと感じたので悠はそれ以上の追究を止した。尤もこれ以上突っ込んだところで新たな警察の捜査事情が訊けるはずも無い。
「おなかすいた」
 会話の隙間を縫って、菜々子が夕飯を強請る。堂島は菜々子を見て相好を崩した。
「あー、そうだな、俺もペコペコだ」
「ははは、堂島さんも、菜々子ちゃんの前じゃ“ぺこぺこ”なんて言うんスね〜」
「うるさい、黙ってさっさと座れ。…じゃない、先に手を洗って来い。あ、俺もか…」
 堂島と足立が手洗い場に向かい、悠と菜々子は惣菜を包んでいるラップを取り始めた。堂島が追加で買ってきたらしいおかずも食卓へ並べる。
 久々に賑やかな団らんになりそうだ。

 足立が帰宅した後、悠は携帯電話を持ちたい旨を堂島に相談してみた。
「お前、今まで持っていなかったのか?」
「はい」
 返事と共に頷くと、堂島は少し考える素振りをした後、意外な事実を口にした。
「持っているものとばかり思っていたが…そうか。確かにそういった類の事務手続きは一切してなかったな」
 天界は一体どの程度まで堂島の記憶操作をしているのだろうかと、悠は今更ながら疑問に思いつつヒヤリとしたが、特に堂島からは悠に対する疑いの眼差し等は飛ばされて来ない。
「まあ友達付き合いもあるだろうし、持つのは構わない。同意書なんかの必要な書類あれば書いてやる。或いは俺名義で契約してやってもいいが…その場合は、月額使用料の明細をチェックするぞ」
「あ…それなんですけど、今日色々聞いて…アルバイトして、自分で払っていこうと思ってます」
「バイトしたいのか」
「はい。話が逆さまになったけど、バイトもしていいですか?」
「勉強するのに支障が無い範囲ならいいぞ。まあどんな内容のバイトなのかだけは報告してくれ」
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ携帯電話の方はお前の名義で新規契約するということでいいんだな?お前の銀行の通帳なんかはその戸棚に入ってるから必要な時に持っていくといい。ああそれからこの際だから決めておくか。お前が来てからゆっくり話をする時間が無くて、とりあえず適当に食費を握らせたが…これからは決まった日にちゃんと月の小遣いも出す。俺から…というわけじゃなく、お前の両親の財産から出すということにするから気にする必要は無い。お前に渡ったお金について俺から口出しするつもりはないが、余り無駄遣いはするなよ」
「はい、わかりました」
 思った以上に話がとんとんと進みまとまってしまった。信用してくれたからには言われた事に注意しようと悠は誓う。元より菜々子を守る為に遣わされている身であるし、羽目の外し方自体知らない。
「ま、とりあえず…ほら」
 悠は堂島から3万円を受け取った。
「今月の小遣いと、近頃の携帯電話は高いようだから、足りないかもしれんが…まあ不足分はバイトして頑張って稼げ」
「ありがとうございます!」
「はは、今の反応は歳相応だな」
 悠の思わず弾んでしまった声に、堂島が苦笑いを浮かべた。悠としては、少なくない額を譲渡してくれた堂島の気前のよさに驚いただけだったが、どうも無条件でお金を貰えたことに喜んでいると思われたらしい。
「言っておくが…今のはお前が自分からバイトをすると言ったから…自分から努力する姿勢を見せたから助け舟を出したに過ぎん。いつもこうだとは思ってくれるなよ?」
 堂島は笑いながら付け加えた。
「わかりました」
「まあでも、いつまでも遠慮はするなよ。じゃねえと、息子を蔑ろにするなって俺が姉貴に怒られちまうからな」
 堂島は悠との話を終えると風呂場へと向かった。居間にはテレビを見ている菜々子と悠が残る。
 悠はもう一度思った。天界は、一体堂島の記憶操作をどれぐらい行っているのだろうか、と。堂島が会話の最後に言った内容は、とてもではないが適当に植えつけられた情報を元にしてはじき出される内容ではない――血が通った言葉、と思わずにはいられなかったのである。

+++

「…で、初バイトはどうだった?」
 4月24日日曜日。花村と悠の都合がついたこの日、二人は沖奈市へやって来た。20日に花村から案内を申し出てくれたのを実行に移した形だ。悠の方はいつでもよかったのだが(テレビの中の調査はおかえりボタンが復帰するまで棚上げとなる)せっかくだし学校が休みでゆっくり時間が取れる休日にしようかと花村から提案された。勿論悠に異存はなかった。
 空いた21日22日は本屋に立ち寄ったり、自室で勉強したり、天界へ送る報告書をまとめたりとそれなりにやる事は多かった。
 そして惣菜大学の隣の掲示板に新規のアルバイトの募集が23日に貼り出され、即日に申込開始出来た学童保育の手伝いと封筒貼りのバイトを行った感想を、今ファストフード店のカウンター席で昼食となるハンバーガーをかじりながら花村に訊ねられている。
「結構大変だった。小学生って元気だな。ずっと走り回ってて」
「だよなあ。学校の行き帰りで見かけるけど、大抵走ってるもんなあ。なんでそんな急ぐ必要あんだよ、みたいな」
 悠が思った通りのことをそのまま告げると花村は笑って同意した。
「疲れたんじゃないのか?今日出てくるの平気だった?ってか、午前中あちこち振り回しちまった。悪い」
 午前中は花村のリクエストで服や靴が売っている店を中心にあちこちを歩き回った。花村は吟味した後、服を2点程購入していた。悠は何も買わなかったが、見るもの全てが新鮮でそれなりに楽しめたので不満は無い。
「平気だから。寝て起きたら疲れは取れてたし」
「ハハ、そっか」
 花村なりに気を使ってくれているのを悠は感じた。
「大変だったけど、面白かった。皆人懐っこいというか、物怖じしないのかな。色々訊ねてきたり平気で体当たりしてきたり…初対面で」
「へえ」
「色んな子がいて楽しかった。ただ中には…」
 途中まで言いかけて、悠は口をつぐむ。
「どした?」
「あ、いや…」
 悠の頭の中に過ぎったのは、なかなかお迎えの来なかった一人の男の子の事。学童保育の先生たちの噂によれば、その男の子と迎えに来た母親とは血がつながっていないそうで、実際その母子の雰囲気はあまりよろしくなかった。
 気にはなったものの、今ここで部外者である花村にあれこれ話してしまうのは憚れる。
「言いにくいことか?」
 花村の方から悠の様子を察して暗に話題の終了を示唆したが、悠は首を振った。話をしかけておいて黙るのは、却ってその母子に対してやましい気持ちがある証拠のように思えた。
「そういうわけではないんだけど。ただちょっと気になった子がいて。簡単に言えば、家庭環境が少しだけ複雑そうな」
「ああ、なるほどな。まあ、中にはそういうヤツもいるわな。全員が全員、同じ環境で育つってわけにはいかねえし」
 花村は慎重に言葉を選んで悠の話にコメントした。デリケートな内容であることを理解したのだろう、表情も生真面目だ。
「人間色々いるよな。もうちっと平等なら、争いごとなんかも少なくて済むのかねえ…まあそれはそれで成り立たない部分も出てくるんだろうけど…俺には想像つかねえわ」
「そうだな」
 人に平等不平等を与えたのは、元を辿れば宇宙を創った神である。神は一つとして同じ環境を創り出さなかった。色々な距離に置かれた光は星をあらゆる形に変形させ、出来上がった空と大地と海もまた千差万別となった。環境に合わせて多種多様の生命が生まれ、自然と試行錯誤と切磋琢磨し、その結果、究極の生命体といえる人は様々な文明を発達させてきた。心の有り方もまた同様である。
「バイトは学童保育の手伝いだけにするのか?フルで入っても週3だろ?そういやバイト代いくらだったか聞いていいか?」
「ええと、なかなか面倒見がいいねって評価してくれたみたいで、5000円貰った」
「え、マジかよ!?昨日何時間働いたんだ?」
「確か2時から5時までだったかな?」
「ウッソ、ジュネスの時給より遥かにいいじゃねえか!あー俺もそっちのバイトマジやりてえわ。特に俺、身内だからって通常のアルバイトよりやっすい時給でこき使われてんだぜ…ここら辺の最低賃金を軽ーく下回ってんだぜ…この間調べてみてガッカリだよ!」
 机に置いた腕の上に顎を乗せて、花村は完全にいじけモードだ。
「それは…お気の毒に」
「あーいいなあ…3時間で5000円…」
「元気出せ。ほら、ポテトあげるから」
「お前…いいヤツだな…ありがたく貰うわ」
 悠がまだ半分近く残っていた自分のポテトを花村に差し出すと、花村は表情を緩めて受け取った。自分の注文した分では足りなかったのか、花村はあっという間にポテトを平らげた。花村は細身の割りによく食べる。先日もビフテキコロッケを3つペロリと食べきっていた。夕飯前に大丈夫かと心配したが、翌日聞いてみると夕飯も普通に食べたと言っていた。
「ふーう、ごちそうさん。悪いな。お前腹足りてる?大丈夫?」
「大丈夫。足りてる」
「そうか?お前食がなんか細そうだからさ…俺より身長デカいのに」
「花村がよく食べるだけだと思うけど?」
「へへ、育ち盛りだからなーなんちって」
 おどけてみせながら顔をくしゃりと崩す花村。その豊かな表情に悠は暫し目を奪われる。今日は特に忙しく花村の表情が動いているように見える。出会った時に感じた、わざとらしさは微塵も無い。いつまで見ていても飽きが来ない楽しそうな表情に、そこそこ打ち解けて貰えているのかなと、悠も自然と明るい気持ちになる。
「この後どうする?俺はもう1軒だけ、雑貨関係の店寄りたいんだけど…お前は?ってか俺の行きたい所ばっか付き合って貰ってごめんな」
「ううん。今日は元々沖奈がどんな所か知りたかっただけだし。色々まわったおかげで大体わかったからよかった」
「そっか。けどホントに寄りたい所あるんなら言ってくれよ」
「うーん…じゃあ、あの角にあった喫茶店、かな。それと携帯電話見に行きたい」
「お、叔父さんのオッケー貰えたのか?」
「うん。同意書とかも書いてくれるって」
「やったじゃん」
「うん。それはいいんだけど、どの携帯会社がいいのか、どんな機種がいいのかさっぱりで」
「俺の持ってるキャリアのケータイでよけりゃ、大体わかるぜ」
「キャリア?」
「ああ、携帯電話の通信サービスしてる会社のことな。稲羽に店舗あったっけな…ここだったらどのキャリアの店舗もあるはずだ。喫茶店とどっち先に行く?」
「じゃあ、雑貨見に行って、携帯電話見に行った後に休憩がてら喫茶店?」
「先、携帯屋でもいいぜ」
「じゃあお言葉に甘えまして」
「おうよ」
 食べ終わって空になったトレイを返却コーナーへ持って行き、二人はファストフード店から出て携帯電話の店舗へ向かうことにした。

「2年間…」
「おう。まあこの辺の縛りはどこのキャリアも同じだな。結構あっという間だし、それに一旦契約したら他社に乗り換えするのってめんどくせーし、大体はそのまま使い続けるだろうから気にする必要ないと思うぜ。ま、2年以内でどうしても解約したいってんなら解約料払えばそれで終わりだけど」
 花村の説明の後半は、悠の耳にはほとんど入らなかった。
 店に入って適当に目を引いた機種を手に取りつつ、花村からそれぞれについて長所短所の説明を聞く。他の客の応対が終わり手が空いた店員が悠たちに近寄ってきたが、今日は同意書だけ貰いますと告げると店員は必要書類を取りに行ってくれたようだ。その間に欲しい機種を絞り込む。
 今、花村がパンフレット片手に説明してくれたのは携帯電話の基本使用料の割引サービスについてだったが、その中の一つ、2年間同じキャリアと契約することで契約開始直後から大幅な割引が利くというものだ。
 言うまでも無く、悠が任務の為人間界で滞在する期間は1年間である。それなのにそれ以上の年数が提示されたので、悠はある種のショックと空洞感を覚えたのだ。1年後にはもう人間界にいることはない。意気揚々と自分の手で人間界の利器を手に入れようとしているが、1年後には無用の長物となる。
「ん、どした?鳴上?」
 途中から反応が無くなった悠を不思議に思って花村が声をかける。悠ははっとして花村の顔を見た。花村の目に自分の顔が映っているのを確認できるくらい、花村の顔が悠の顔に接近していた。
「大丈夫か?話、わかんない?」
「あ…いや…大丈夫。なんでもない」
「ま、手続きする時に店の人がまた一から説明してくれるし、その時に色々聞けばいいさ」
「あ、うん。ありがとう」
「どういたしまして」
 悠の役に立てたことを誇ってか、花村がニっと笑う。悠の胸の奥がチリっと信号を発した。このできたての友人もいずれは別れの対象となる。悠からは花村の姿は捉えられるが、その逆は無理だ。人には天使の姿は見えない。思考が一気にネガティブな方向へ流れ出そうとしたその時、書類を携えた店員がやって来たので、幸いにもそれは強制終了した。

 店員から書類の説明を受けた後、二人は店舗を出た。その足で続いて雑貨関係の店へ向かう。その道中で花村の携帯電話が鳴り、足を止めた。
「うお、メールか。悪い、ちょっと」
 花村は悠に断りを入れ、ポケットに入れていた携帯電話を取り出して内容を確認した。しかし内容を見た瞬間眉を顰め、すぐに携帯電話をポケットにしまう。
「また迷惑メールかよ…アドレス知られてんのかね。迷惑メール、すっげ来んの」
「迷惑メール?」
「ええと、簡単に言えば頼んでもねーのに勝手に入ってくる広告みたいなモン」
「どうにかできないの?」
「うーん、それ一つ着信拒否ってもドメイン変えられたら意味ねーし、最終手段は自分のアドレス変えりゃいいんだろうけど…それはちょっとさぁ…」
 花村は困ったようにため息をついている。
「稲羽市に引っ越してくる前から、メルアド変えてないんだ。一応、誰かからメールあるかも知んないし…電話はしにくいだろ?わざわざ“アドレス変えました”って連絡するのもウザいじゃん。連絡する気ねーよ!って場合あるし…」
 花村の葛藤が見え隠れする。1年間限定で人間界に居る悠とは違い、人である花村の生活はずっと人間界で続いていく。いつどんなタイミングで繋がりが発生したり切れたり、はたまた再燃したりするのか予測できない以上、おいそれと全てを切り捨てることはできない。
「あ、何だよ、俺が友達いねーヤツみたいに見んなよー!…まー正直、前のトコのヤツらとは何話してたかとか覚えてないし…友達…って言うと、何か微妙な感じだな。せいぜい顔見知り程度?ま、向こうの高校には半年ぐらいしかいなかったしな。まだ中学ん時の友達の方がよく遊んでたっけ」
 花村の口ぶりはどこか他人事のようだった。懐かしんでいる様子は無く、さして未練もない風を装っている。
「おっと、立ち話もなんだな。行こうぜ」
 その後二人は、予定通り雑貨関係の店に立ち寄り、喫茶店で1時間程過ごすと黄昏時が近づいて来たので、電車に乗って稲羽市へ帰ることにした。

「こうやって誰かとほぼ一日遊ぶなんて、マジで久しぶりだったわ。しかも一対一で」
 電車が八十稲羽駅に近づく頃、花村が感慨深げに言った。
「そうなのか?」
「ほぼバイト漬けだったし、それにホラ、俺ってば有名人だし?」
「そういうな。反対に言えば、それが無ければ…」
「無ければ?」
「出会って間もない俺に、一日嫌な顔せず付き合ってくれたくらいなんだ、あちこちで人気者になってると思うぞ」
「えー…それは、ないわ」
「あるよ。今日だって楽しかったし。俺に大分気を使ってくれたのわかるし」
「あー、んなことねえよ。お前に構わず自分の好きなとこばっかまわっちまって…ホントごめんな」
「謝らなくていい。本当に楽しかったんだから。よかったらまた…花村と遊びに行きたい」
 悠はその気持ちを笑顔に変換して花村へと表した。そんな悠を見て、花村は一瞬目を見開き、次には悠と同じような笑顔を浮かべた。頬が少し紅潮しているように見える。
「お、おう!そりゃ勿論!へへ、面と向かって言われるとなんかこう…こそばいな」
「え、どこが?」
「いや、物の喩えだから!嬉しいっつー…あ、いや、なんでもない。ウザい俺っ!自重しろ!」
 百面相する花村を救ったのは、間もなく八十稲羽駅に到着する旨を告げる車内放送だった。
「おー着いたか。案外すぐだったな」
 電車が駅に到着し、二人は電車から降りた。互いの家に至る分かれ道まで、なんだかんだと話が途切れることがないのは、大半花村のおかげである。
「じゃあ、また明日な」
「うん。今日はありがとう」
「こっちこそ。気をつけて帰れよ」
 悠に背を向けて歩き出した花村の後姿を見送り、悠も堂島家へ向かって歩き出そうとした。楽しかった一日を思い起こすと同時に、忘れかけていた“1年間”という期限が頭の中で蘇る。
 思わず悠は花村が去って行った方向に振り返った。花村の後姿はもう小さい。その内この人間界から去る自分の姿がだぶった気がした。
 始まったばかりだというのに今から気にしていてはだめだ――大きく息を吐いて、悠は今度こそ歩き始めた。


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ペルソナ小説置き場へ 】【10−1へ

2014/03/15

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