you're forever to me >> 7-1


【 確証へと至るまで 】



 「あれ、土曜日にテレビに映ったのって…天城、だよな?」
 月曜日の朝、鮫川の土手を歩いていると後ろから自転車に乗った花村がやってきた。悠に朝の挨拶をした後、すぐさまマヨナカテレビのことを出してきた。
「見たのか?」
「ああ、一度見始めると気になっちまって。今回のなんか、誰が見ても天城ってわかる鮮明な映り方してたんだけど、お前はどう見えた?」
「俺もだ。表情まで見えた。背景も…広そうな建物の中にいたような感じ」
「そうそうそう。あれ…一体どこだ?この辺にあんなデカい建物なんて…まあ学校か病院かジュネスぐらいだろうけど、どれも内装は全然違うしな」
 テレビに映った建物は花村にも思い当たる場所がないらしい。テレビの中の建物は稲羽市内のものを模しているのかと推測していたが、早くもそうではないのが判明した。
「天城…今日は来るって言ってたよな。里中、迎えに行くっつってたし」
「そのはずだ」
 土曜日の授業が終わって、その帰り際に里中が天城に、月曜日は天城を迎えに行く旨を連絡していた。そうして日曜日に、天使の姿で悠が天城屋旅館に訪ねていくと、土曜日の夕方から天城の姿が確認できていない状況を、旅館の従業員と警察官のやり取りで立ち聞きした。堂島はこの日家に帰ってきたものの、天城の話題は特に出なかったので無事の確認は出来ずじまいだ。もし行方が分からないままであれば――今日学校には来ないかもしれない。
「仮に、さ…その、こないだマヨナカテレビに映った人は死んでしまうなんて予想したけど、映って2、3日の間に山野アナも小西先輩も死んだだろ?そう考えると、天城も今日明日中に……あ、いやいや、こんなの考え過ぎだよな。つか、今日天城が登校してくりゃ、マヨナカテレビなんて単なる偶然で終わりだし」
 自分の言った内容にぎょっとして、途中でフェードアウドさせる花村。さすがに不謹慎過ぎる発言だと思ったのだろう。一言ゴメンと悠に謝りを入れつつ、もう一つ気になっていることを口にした。
「そもそもなんであんなものが映るんだか。怪奇現象ってこんな簡単に起こるモンなのか?それにどうもマヨナカテレビを見ようとしたヤツ皆が見れてるってわけじゃないっぽいし。現に里中は見えなかったって言ってたよな。お前や俺が見れるのはどういう基準なんだか」
 花村に指摘されて、新たな謎がまた浮上する。マヨナカテレビにはまだまだ分からないことが多い。分からない点を挙げていく事すら十分な状態には至っていない。加えてこれまた不透明な点が多い場のイレギュラーとの関連についてもだ。いくら悠が優秀な天使であっても、短期間の内に一人で全てを見通すことは不可能だろう。考えることが沢山あり過ぎてパンクしそうになってきたが、全部は無理でも断片的にでもこの街に起こっている事件を共有できる人がいるのは助かる。自分一人では落としている事を拾い上げてくれる花村の存在は非常にありがたかった。

 教室に着くと里中がすでに居て、悠と花村の二人を見るや否や傍に駆け寄ってきた。
「雪子が…雪子が、一昨日からいなくなったって…!」
 里中は二人に必死の形相で訴えかけてきて、小さくないその声を聞いた教室中のクラスメイトの視線を集めてしまった。
「え…マジか、それ?」
 悠も花村も次の言葉が出なくなる。登校時に話題にしていた事について、悪い予想の方へ現状が傾いてしまい、一瞬にして肩から上が冷えるのを感じた。
「今日、約束どおり雪子を迎えに行ったら…雪子のお母さんから、そう聞いて…あたし、どうしたらっ!」
「おお落ち着けって!」
「落ち着いてなんかいられないよ!」
 事情をぶつけられる友人が来て、我慢の糸がぷっつり切れてしまったかのごとく里中は完全に取り乱している。その様子を見て、一旦は同じように恐慌しそうだった花村はかえって冷静になり、いつもよりも低い声で里中を一喝した。
「それでも落ち着けっつの!」
「っ!」
「声がデカ過ぎる…自分から余計に大事にしてどうすんだ?」
 花村の宥めるような言い方に、頭の血が沸騰していた里中もそれ以上の癇癪を起こさず、俯いた。
「あー…教室の出入口じゃなんだ、とりあえず里中、お前座れ。席」
 花村に促されて里中は自分の席へ座り、悠と花村は自分の机の上に荷物を置いた後、里中の席に集まった。
「もっかい聞かせてくれ。土曜日授業が終わった後に電話した時は、天城は電話に出たんだったよな?」
 花村は、自分が把握している天城の行動を復唱し、里中に確認した。里中はコクリと頷く。
「うん…出た。今日一緒に学校行こうって。それから後、もう一度電話したの。土曜日の夜に。その電話には出なかった。まだ用事あるのかなって思ってかけ直さなかった」
「電話したのはそれだけか?」
「ううん。日曜の午前中にもかけた。それにも出なくて、またお昼過ぎにもかけた、けど…こっちがかけたら、時間空いた時にでもコールバックあんのに、全くかかってこなくて。さすがにおかしいと思って、今日約束した時間よりもかなり早く迎えに行ったら…土曜の夕方から、いなくなったって」
「天城の家は、捜索願とかは出してるのか?」
「うん…日曜の朝には出したって。今日も警察の人が旅館に出入りしてたし、旅館の人皆で探してるって」
 悠が日曜日に天城屋旅館へ行った時の状況と合致する。そう言えば警察は天城の行方不明を、家出の線で洗っている様だった。家出だとしたら天城に一番近い友人である里中なら心当たりがあるかもしれない。悠はそう思って里中に訊ねてみる。
「その…仮に天城が家出したとして、何か天城の様子がおかしかったとか、書置きとかは見つかってないのかな?」
「家出?雪子が家出するまで思いつめてたなんて…この時期の団体さんを捌くのと、警察やマスコミ関係の人が沢山来てその対応に追われてて、それでいつも以上にしんどそうには見えたけど」
「家出に繋がるような悩みとかは、特に何も聞いてないんだな」
「あたし…肝心な時に雪子の力になれてないなんて」
 家出する決定的な出来事やきっかけを、天城は誰にも打ち明けていない。天城の家の人や里中が聞いていないのならそう考えていいだろう。余程打ち明けにくい事情なのか、さもなくば。
「そうじゃない。家の人やお前に打ち明けたい悩みが無いとすりゃ、家出じゃなくて他の線が考えられるって事だろ、だよな、鳴上」
「うん」
 花村が悠の言わんとしたことを察して里中に説明した。他の線という言い方でぼかしたのは花村なりの配慮だったが、天城で頭が飽和状態の里中には効果が無く、止める間もなく里中の声がもう一度教室中に広がった。
「他の線って…まさか、誘拐!?」
「声、大きいから!」
 花村が里中の放った言を被せる様にたしなめたが、クラスメイトたちから再び完全に注目されてしまった。事情を深く知らない人からの好奇の視線に、悠は居心地の悪さを覚える。花村がなるべく注目されぬように里中を落ち着かせているのは、過去不本意の内に自分が悪目立ちしてしまった経験則に基づいているのかもしれない。
「とにかく、放課後に天城の立ち寄りそうな所を捜してみようぜ。なんかわかるかもしんねーし」
「放課後まで待てないよ!あたし、今から捜しに行ってくる!」
 席から立ち上がり、今にも教室から出て行きそうな里中を、花村が必死に押し止める。
「授業はどうすんだよ?もう始まるだろ」
「そんなのどうでもいいよ!雪子の身に何かあったらどうすんの!」
「警察が捜索始めてるだろうが。素人の俺らが闇雲に捜して簡単に見つかんなら、旅館の人たちが捜した時点でもう見つかってるだろ?とにかく、大事にすんな。天城が戻って来た時に居辛くする気か?」
 花村の尤もな説得に、里中はようやく興奮状態から脱したようだ。そのままストンと席へ腰掛け、力なく縋る様に二人へ呟いた。
「…わかったよ。協力、してよね」
「当たり前だっつの」
「ああ、勿論」
 ショートホームルームの開始を知らせる予鈴が鳴り、悠と花村も各々の席へ移動した。その途中で二人の視線が合い、どちらからともなく頷いた。このまま天城が見つからなかったら死んでしまうかもしれない――マヨナカテレビに映った二名が、行方不明になった後いずれも死んでいる現実を鑑みるに、決して無視することはできない推測になってしまった。それは悠と花村だけの、暗黙の了解だった。


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2014/01/21

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