you're forever to me >> 4-2


「でか!しかも高っ!こんなの、誰が買うの?」
「さあ…金持ちなんじゃん?」
 ジュネスの家電売り場。堂島家に置かれているテレビよりも、一回りも二回りも大きなテレビが何台も展示されている。今目の前にある、展示品の中では一番大きな物と思しきテレビは大袈裟でなく倍以上の大きさに見える。
「けど、ウチでテレビ買うお客とか少なくてさ、この辺店員も置かれてないんだよね」
「ふぅん…やる気ない売り場だねぇ。ずっと見てられるのは嬉しいけど」
「こんくらいデカいと……マヨナカテレビが映るんだったら…よく見えそうだな」
 花村が独り言のように呟いた。呟きの後半のほとんどは悠と里中には聞き取れなかったが。
「え、なんか言った?花村?」
「何でもねえよ。で、里中。お前んち、どんなテレビ買うわけ?」
「とりあえず安いヤツって言ってた。オススメある?」
 見ていたテレビの右隣にある商品へ、花村と里中は移動する。悠はざっと見渡して確認してみたが、目の前のテレビが一番大きく、他のテレビはどれもこれ以下のサイズだ。この一番大きなテレビならクマも余裕で入れるし、客も少なそうだし店員も配置されていないとかで人目も思ったほど無い。おまけにジュネスの営業時間帯に限られるが人の姿でやってくることが出来る。これ以上の好条件は無いような気がする。
 今は二人の目もあるし、第一クマがいない。天界からの意向も聞かなければならない。今日の所は悠もこれで帰ることにした。
 花村と里中の二人はまだああだこうだと話し合いをしている。昨日のように3人でジュネスを出ることになったら花村と暫く並んで帰る可能性がある。その時にマヨナカテレビについて何か聞かれるかもしれない、それは避けたいので今が一人で帰るチャンスと悠は思った。だが。
「悪いけど、俺先に帰るから。また明日」
「だからお前んちの予算によるんだって…って、え、鳴上、帰んの?ちょ待って!ほったらかしにして悪かった!」
 花村が里中の相手をしつつ、慌てた様子で悠を引き止める。どうやら悠の相手をしなかったから気分を損ねて帰宅するのではないかと、花村は思ったらしい。
「いや、別にそういうのではないから。気にするな」
「いやいやいや、マジごめん!もう話終わっから、な、里中?」
 悠の足は完全に出口に通じるエスカレーターの方へ向いていたが、花村の想像以上の気遣いっぷりに思わず足が止まってしまう。人の気持ちを蔑ろにできないのが悠のいいところであり、弱みでもある。悠自身も今自覚した。
「う、うん。ゴメン、あたしも夢中になってた。あー…花村、適当にパンフちょうだい。持って帰って親に見せてみる」
「おう、是非そうしろ。他で買うことになっても文句言わねーから」

 結局、昨日と同じように、3人揃ってジュネスから出ることになり、ジュネスを出てすぐに里中とは別れ、悠と花村が暫くの間肩を並べて歩くこととなった。昨日と違うのは二人とも手に傘を持っている点だ。雨は相変わらず降り続いていた。
「しっかしよく降るよなあ。さすがにそろそろ太陽が恋しいな。雨や霧ばっかじゃこう、気が滅入るっての?」
「そうだな。ここはこんな感じなのか?」
「うーん、確かに都会と比べたら雨が多い気がするな。んで、長雨の後にはほぼ霧が出るし。霧なんかこの土地の名物かってレベルだぜ。ロンドンかっつーの」
「そうか」
 雨が降り続いた後に発生する霧。雨が霧を呼び、霧は人の負の感情を増幅させ、歪んだ地点を作り出す。なら雨も場のイレギュラー発生に一役買っているのか、と悠はそんな当て推量を頭に思い浮かべたが、その思考は一旦中断した。
 花村が、なあ、と悠に呼びかけたからだ。
「その、さ。さっきは里中の手前ああ言ったけど…俺、本当は見てたんだ、マヨナカテレビ」
 花村のそんな言葉に、進行方向を向いていた悠の視線が花村の顔に移る。一方の花村は若干伏せがちだが進行方向を向いたままだ。あまり予感が的中して欲しくなかったが、やはり花村はマヨナカテレビの話を出してきた。
「そうだったんだ。で?」
「映った。最初砂嵐が起こって…んで、ぼんやりとシルエットが見えて。多分、女の人」
 先程、まだ学校でしゃべっていた時のまさかの内容の半分が当たった。授業が終わってすぐ、悠に話し掛けてきた時の花村の様子がぎこちなかったのもこれで合点がいく。確か昨日里中からマヨナカテレビの話を聞いた時点では、花村は全く信じていなかった。だが実際に超常現象を目の当たりにして、未だ半信半疑のままマヨナカテレビが見えたと告げるのに抵抗があったのだろう。言いだしっぺの里中から何も映らなかったと言われたのだから尚更である。
「あんま、驚かないんだな」
「えっ」
「ま、信じられねーわな普通。電源の入ってないテレビが映っただなんて冗談にしか聞こえねーし。或いは…実はアレが見えたクチだからすんなり納得したとか」
 花村に目を合わせられ、悠の心の中でギクリと音が立つ。最後にその通りを指摘されてどう答えていいのかまるで思い浮かばず、黙るしかできなかった。徐々に悠の視線が花村の目から下へと下がっていく。
「…」
「ひょっとして、見えたクチ?」
 隠していた事実を言い当てられ、悠はいたたまれなくなって花村から完全に視線を逸らし、一度だけコクリと頷いた。嘘をつく知恵を養わない天使が、嘘を突き通す真似など咄嗟にできるはずがなかった。
「いやー、やっぱ見間違いとかそんなんじゃなかったんだ。里中もお前も見えなかったって言ったから、てっきり俺の寝オチなんかなーって」
 花村は悠の気まずそうな顔つきを見て、場の雰囲気を解きほぐすつもりでおどけた様に笑ったが、一時的にしろ花村を騙してしまって罪悪感が拭えない悠は神妙に謝罪した。
「嘘ついて、ゴメン」
「いやいや、謝る程のことじゃねえって。つか俺の方こそ、ゴメン。鎌かけるような真似してさ。なんか映らなかったって言った時のお前の表情見てたら、ちょっと目が泳いでたっていうか。だから俺らに話合わせたんかなーってさ」
 生まれて初めてついた嘘はあまりにもあっさりと見破られてしまった。その事に悠は恥ずかしさと罪悪感をますます募らせる。
「でも…嘘は嘘だし」
「俺が最初から見たって言ってれば、お前もあの場で見たって言っただろ?お前のその様子じゃ、な。会話の流れに合わせただけじゃん?嘘の内に入んねえよ。んな深刻にならなくていいって」
 なおも申し訳無さそうな様子の悠を励ますように花村は明るく笑いかけた。
「今時珍しいぐらい素直だなお前。なんかほっとするわ。意味わかんねーぐらいに言い訳とか誇張するヤツらにお前の爪の垢煎じて飲ませてやりたいぐらいだよ」
「そんなヤツ、いるのか」
「いるもなにも…って、んなことお前に聞かせる話じゃないか。悪い、流してくれ」
 心当たりがあるようだが苦笑しつつ花村は言葉を飲み込んだ。あまり人間関係が上手くいってないのだろうかと、ふと心配に思ったが、出会って二日しか経過していないが、花村の人当たりの良さは少なくとも人と接する事そのものに慣れていない悠と比べようが無い程洗練されているように思う。小西から友達が少ないと槍玉に挙げられていたが、今日一日の花村の様子を見る限り、級友とも普通にやり取りをしている感じだった。そうすると教室以外の、他の部分で何か引っ掛かるような事があるのかもしれない。
「けどさ、映ったからって…びっくりはしたけど、それ以上どうしょうもないよな。映った人間が運命の相手とかって言われても、不鮮明過ぎて…って、お前にはどう見えたんだ?」
 分かれ道に差し掛かったが、花村は足を止めて悠に質問を投げかけた。悠も見たままを答えることにする。
「同じような感じ、かな。シルエットがぼんやりと見えただけだ。体型が華奢で髪が長くてスカート姿だったから多分女の人。微妙に動いてた」
「そっか。運命の人が映るってんなら、映ってたのが女の人だから、里中には見えなかった、とか?」
「さあ…」
「でもそれなら里中には男の姿の誰かが映ったっておかしくないよな?つーことは、俺とお前には運命の人が近々現れるから映ったってことで、里中にはまだ現れないから映らなかったとか?はは、もしそうなら里中お気の毒ー、だな」
「そうなのか」
「いやそうなのかってお前…こんな噂聞きつけて試してみるぐらいなんだし、アイツも人並みに運命の人とやらの存在を信じてんじゃねーの?」
 人に跳び蹴り食らわせるような女だけどなーと付け足しながら、花村は悪気無くカラカラと笑った。作った感じの無い、自然な笑い顔だった。
「とと、引き止めて悪い。今日もこのまま雨降るみたいだし、起きてたらまた見てみるわ、マヨナカテレビ。んじゃな」
 わずかに水滴がかかっていた自転車のサドルを制服の袖で乱暴に拭うと、花村は自転車に乗って去っていった。見届けて悠も歩き出した。


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2013/11/23

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