you're forever to me >> 9-1


【 語 ら い 】



 「おーっす鳴上!」
 毎朝恒例となりつつある、花村からのおはようコール。後方から妙なギコギコ音が耳に入るようになったら、それが花村の訪れを知らせる合図である。
「おはよう」
「天城、見つかったんだってさ!」
 悠に追いつくや否や、乗っていた自転車から降りながら、声を弾ませて花村は天城発見の報を伝えた。
「そうか」
「あれ、あんま驚かないんだな」
 彼女たちを助けた張本人が知らないはずが無いが故に、うっかりそれ相応のリアクションをするのを失念してしまった。焦りながらも、悠はたまたま思い浮かんだ疑問に摩り替えてみた。
「…いや、花村がどうしてもう知っているのか、驚き過ぎてどう反応したらいいのか」
「ああ、それか。実は里中から夜中にメールで連絡きてさ。普段ならがっつり寝てた時間なんだけど、たまたま眠りが浅かったんか、着信に気づいて。それでだよ。お前の方はさしずめ叔父さんから聞いたってところか?」
「まあ、そんな感じ」
 確かに堂島からは出勤の前に、ごく簡単ではあるが天城が見つかった旨を教えて貰ったので花村の推測に間違いは無い。
「そっか。はー…まあ何にせよ、よかったよな。結構すぐに見つかってさ」
「そうだな。よかった」
「今日も明日も里中のギャーギャー喚くのに付き合ってたら、こっちがノイローゼになっちまうもんな」
 冗談交じりに花村が里中の噂をすると、聞き覚えのある声が花村の耳を刺した。
「誰が、ギャーギャー喚く、ですって!?」
「うおっ!?」
 悠と花村の後ろからやって来た、会話の途中を聞いていたらしい里中が、花村の尻に靴跡を残すように蹴りを決める。花村は自転車ごと前方へつんのめり、倒れこそしなかったが自転車ごと身体が傾いて片膝をつくはめとなった。
「おっはよーっす、鳴上君!」
「おはよう。天城、見つかったんだってな」
「うん!昨日の夜帰ってきたんだ!」
 悠の斜め前に回りこんで足を止め、里中は嬉しそうな声と明るい表情で報告した。その横から里中とは正反対の、苦悶に満ちた花村の呻き声が届く。
「若干、ケツが割れた…」
「え、今まで割れてなかったのか?」
「んなわけねえ!イテテテ…」
「フンだ、自業自得、思い知ったか」
「知り過ぎて辛いです…尻だけに」
 花村が体勢を立て直したのを見届けて、今度は3人並んで歩き始める。
「に、しても今お前、帰ってきたって言ったよな?天城やっぱ家出だったのか?」
「うーん、それがさ、雪子いなくなってた時の記憶が、ほっとんど残ってないんだって」
「え、マジか?自分でいなくなったのか、誰かに連れ去られたのかもわかんねーのか?」
「うんまあ…その辺の話はまだ詳しくはしてないの。雪子凄い疲れてたみたいだから…とりあえず休養して、それから事情聴くことにしたから。だから学校にも暫くは来れないかも」
「そっか」
 天城の記憶は、悠が精神世界で訊いた内容と同じようだ。残念ながら天城の身に何が起こったのか詳しくは聞き出せないだろう。せめて自分でテレビの中に入ったのか、はたまた誰かの幇助で入ったのかだけでも分かればよかったが、まだ絞る事はできなさそうである。天城が消えた場所についても謎のままだ。

 学校の正門まで到着し、花村は自転車置き場へ向かったので教室まで里中と二人になる。里中は天城が帰ってきた事を本当に嬉しそうに話し続けた。
 里中と天城の繋がりの強さは二人の精神世界でたくさん見せて貰った。それを裏付けるのに十分な喜色だ。
 下駄箱で靴を履き替えた後である。ふと、里中が真面目な表情になり、悠に向かって頭を下げた。
「鳴上君、その…色々迷惑かけちゃって…八つ当たりまでしてしまって…ホントごめん!」
「気にして無いよ」
 悠が柔らかく伝えると、里中は首を振ってより神妙に続ける。
「鳴上君と花村がいてくれたから、あたしどうにか正気だったと思う。もしブレーキかけてくれなかったら…あたし自身が捜索対象になっちゃってたかも」
「それ、機会があったら花村にも言ってあげて。俺よりも里中のこと落ち着かせるのに必死だっただろうから」
「あ、うん…アイツに頭があがんなくなる日が来るなんて、思ってもみなかったけど…花村に言われた一言が効いたのは事実かな」
 大事にすんな。天城が戻って来た時に居辛くする気か――里中への釘が利いた花村の言葉が悠の頭の中で反芻される。花村しか言えないアドバイスは、これ以上無い的確なものだったと思う。
 天使は時に人を教戒を施す役割を担うこともあるが、悠にはその立場に至ることはできないと直感した。まだまだ天使の中でも新参者に近い存在で経験値が全く足りていないのもあるが、人の為と言いつつ実は自分たちの都合であるのは天界の常套手段で、それ故に人に対し上から目線になってしまいがちである。
 花村の、誰かを思いやる為の戒めから、人とは対等な目線でありたい。花村や里中たちと接してみてそう考えるようになったのだ。
「でね、それとは別に…鳴上君にお礼を言わなきゃいけない気がして…なんかね、こう…この辺まで出掛かっているんだけど、何に対してか思い出せなくってさあ…鳴上君、これなんだか覚えない?」
 里中が喉元をチョップするように“この辺”を示しているが、もう一声分が出ないようで、悠に訊ねる始末なのはなんとも里中らしい。
「いや、俺に訊かれても」
「ですよねー。なんかとにかく、鳴上君にお礼言わなきゃってことだけは確かなんだけど…夢かどっかでそう思って…でもその中身が何だったのか…あーもー!」
 終には癇癪を起こした里中だったが、やっぱり思い出せないらしく、仕方が無いので説明を飛ばすことにしたようである。
「だから何も言わずに聞いて!その…色々ありがとう。鳴上君のおかげで、ここ何日かの事すっごく助かった…気がするの」
「そうなのか。全然わからないけど。じゃあまあ…夢の中の俺に代わって、どういたしまして?」
「あはは、そこ、疑問系にしなくていいって」
「いや俺は何もしてないし」
 悠には里中の感謝が何に対してなのか全て把握している。記憶には残らないはずなのに気持ちが残っている。花村の時にも思ったが、人の心とは知れば知るほど奥深く、未知なる可能性が際限なく秘められているように思えてならない。
「あれ、お前ら、まだここにいたのかよ」
 自転車置き場を経由していたはずの花村が二人に追いついてきた。思ったよりも里中と話し込んでいたようだ。
「ああ、ついつい話が弾んじゃった。いこいこ」
 さっさと歩き出す里中の後姿を見て、花村の溜飲が下がった。
「はー、ったく、ゲンキンなもんだぜ。ま、塞ぎこまれるよか全然マシか」
「だな」
 同じく里中の背中を見ていた悠だったが、相槌を打った後、花村と顔を見合わせ、小さく笑い合った。


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2014/03/01

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